歩行速度は「第6のバイタルサイン」The Monocle Quality of Life Conference 2026レポート

2007年の創刊以来、都市生活を取り巻くさまざまなテーマを独自の着眼点で取り上げてきた英国・ロンドン発のメディア「Monocle」(モノクル)。

モノクルが「QOL(Quality of Life=生活の豊かさ)」をテーマに世界中からゲストを招いて開催している大規模なイベントが「Monocle’s Quality of Life Conference」です。

今回は9月3日から5日に、ポルトガルのリスボンで開催され、「Health: walk it out」をテーマにしたパネルディスカッションに、STRIDE(ストライド)代表の福地孝が登壇しました。グループ企業であるSTRIDE ReMOV(ストライド・リムーブ)取締役の阿部勝彦も現地に同行。イベントの概要を紹介しながら、登壇の模様をレポートします。

現代の生活環境が自然な歩行の妨げになっていること、多くの人が適切なサイズでシューズ選びができていないこと、そして、足の状態を把握するための指標の不在など、本質的なディスカッションが展開されました。

都市を「歩く」ことは日常である

モノクルは、2007年の創刊以来、都市生活を取り巻くさまざまなテーマを独自の着眼点で取り上げてきました。いまでは、ロンドンとチューリッヒに本部を持ち、パリ、香港、東京に支局を置いています。

80カ国以上で流通する英字雑誌『MONOCLE MAGAZINE』のほか、ラジオ局『MONOCLE RADIO』は、経営者や起業家にインタビューする「The Entrepreneurs」、都市計画・建築について多角的な発信を行う「The Urbanist」、各地域・都市の食について掘り下げる「The Menu」など多くのチャンネルを持ち、国際情勢、ビジネス、デザイン、カルチャーに感度の高い人々を惹きつけるメディアブランド、コミュニティとして定着しています。

日本のカルチャーシーンも度々取り上げてきたモノクル。今回のカンファレンスでは、歩行と足の健康というテーマで日本からストライドが招待された

そんなモノクルが2015年から主催する「Monocle’s Quality of Life Conference」は、世界各国から選ばれた登壇者によるパネルディスカッションと、開催都市を実際に歩いて回るツアー、そしてネットワーキングがひとつになった年に一度のイベントです。今年は第1回目の開催地でもある、ポルトガルのリスボンで開催されました。

モノクルは、毎年「Monocle’s Quality of Life Survey」という調査を行なっています。モノクルが考える「住みやすい都市」を定義するアンケートの上位20都市が選ばれるというものです。

「Monocle’s Quality of Life Survey」で選ばれる都市は、「歩きやすい街」にとどまらず「歩くことが楽しい街」と言い換えることができるかもしれない

文化、小売産業、ホスピタリティ、建築といった都市の文化的成熟度が重視されており、税率やGDP、生活費といった観点からの「住みやすさ」とは異なる視点で都市を評価したいというモノクルの価値観を表しています。開催地であるリスボンは、今年は3位。日本からは京都がオーストラリアのパースと並んで20位、そして東京が1位に選出されました。

都市の住みやすさ(Livability)は「歩きやすさ」(Walkability)でもあるかもしれません。

それは、車の通りがない、あるいは少ない、道がフラットである、公共交通機関の利便性が高い、空気がきれい、治安がよいといった、モビリティやセキュリティの視点から語られるような、行政や都市計画寄りの「歩きやすさ」がまずあげられるはずです。

それを前提としながらも、そうした指標では語りきれない魅力をもつ都市が、モノクルの調査では上位に上がっています。リスボンには石畳も多く、道もフラットとは言い難いものの、蓄積されてきた歴史を肌で感じながら、街を歩くことそのものや食事を楽しむことができる。東京や京都は、アジアにおける文化的発信地としてのポジションを築いていると国際的に評価されています。

「都市を歩く」という行為は、エクササイズとしてのウォーキング、ランニングや、自然に溶け込むハイキングと同じフィールドで語られることはほとんどありませんでした。どちらかというと、そうしたアクティビティのほうが、近年目にする機会の増えた「健康寿命」という言葉と相性がよいイメージがあるのかもしれません。

それでも、世界人口の大半が都市部に住んでいることを考えれば、都市を歩くことのほうが多くの人にとっての日常であるといえます。地面を踏みしめて、正しく身体を使って歩くことは、そうした日常を豊かに送り続けるうえで不可欠な要素でもあるはずです。

足を見直すこと=身体をケアすること

9月4日に行なわれた今年のカンファレンスプログラムで、ストライド代表の福地孝が登壇したパネルディスカッションのテーマは「Health: walk it out」でした。

ともに登壇したのは、米国を拠点とするフットヘルス(足の健康)に関する世界的な権威、Gait Happens(ゲイト・ハプンズ)創業者で、2026年に刊行されたベストセラー『WALK』著者のCourtney Conley(コートニー・コンリー)博士。セッションでは、人間の身体にとって重要な感覚器官であるにもかかわらず、見すごされがちな「足」について、さまざまな観点から語られました。

コートニー博士はセッションの冒頭でこう問題提起しました。

「私たちの多くは、二足歩行する生き物として進化することを可能にしてくれた部位──『足』を無視してしまっているのだと思います」

じつに約6割から7割の人々が、誤ったサイズでシューズを選んでいるという調査結果もあり、このことからも足を労る・見つめ直すということには再考の余地が大いにあります。

「自分の足を見てみると、いちばん幅が広いのは足指の部分のはずです。ところが多くの靴を見るとまったく逆で、つま先に向かって細くなっている。それが足のメカニクスに影響し、安定性に影響してしまうんです」(コートニー博士)

福地が登壇したセッション「Health: walk it out」では、「足」と「靴」それぞれの専門的な見地から、本質的な話題提供がなされた

トゥボックス(つま先)が広がった「フットシェイプ」シューズやベアフットシューズは、着実に浸透しているもののまだまだ市場では少数派といえます。すなわち、靴を履いて生活する文化圏の人々は、長期間にわたって、足を靴の形に合わせるように仕込んできてしまったといっても過言ではありません。

私たちは、基本的には既製靴を履いて生活しています。だからこそ、サイズや、選ぶ靴の形を見直すことは、とても大切な「足のケア」であり、ひいては「身体のケア」だといえるでしょう。

歩行速度は「第6のバイタルサイン」

パネルディスカッションで提供されたもうひとつの重要なトピックは「足の状態を数値化する」という観点でした。

従来、足に関する数値で一般的なものは、足幅や足長といった足のサイズ。しかしながら、自身の足のサイズを把握しているようでいて、前述したように多くの人が適切なサイズ選びに失敗しているという現状があります。逆説的ですが、これまで、足のことを知る数値がそもそもサイズしかなかったことも、その一因といえるかもしれません。

コートニー博士は言います。

「足は、私たち専門家から見ると、感覚器官といって良いほど、何千もの受容器があって、身体の動き方やバランスの取り方についての情報を常に脳に送っています。その機能が損なわれると、身体全体に影響してしまうのです」

私たちは今日、血圧や脈拍といったバイタルサインを見て、身体の状態を把握することができます。でも、身体の土台である足の健康に関する数値を定義することにはずっと手こずってきました。

ディスカッションのモデレーターを務めたモノクル東京オフィスのジャーナリスト、フィオナ・ウィルソンさんは、リスボンでのカンファレンスに先立ってストライド・ラボ東京本店を訪れました。かねて足の痛みに悩まされることが多かったというフィオナさん。来店時に、ストライド・リムーブが構築した足の健康度合い(フットヘルス・インデックス=FHI)を可視化する「フットアンクル・コンプレックステスト(Foot Ankle Complex Test=FACT)」を体験していただきました。

カンファレンスの場で、フィオナさんはこう振り返りました。

「それまで、足についてまったく考えたことがありませんでした。足の強さを測るということ自体、そんな話をしている人にこれまで会ったこともなかったのです。自分の足の数値を見ることは驚きでもあり、とても興味深い体験でした。とはいえ『あなたはひどい足をしている』と通告するようなものではなく、実用的なフィードバックに自然につながるような仕組みになっていることが良いと思いました」

ストライド代表の福地は、だれも足のことを話さない、というこの現状について、違和感を持ち続けてきました。

健康に対する意識が高まる一方で、起点である「足」が見落とされてしまうことが多いという課題が、会場では共有された

「健康を意識して、週に3日、4日とジムに通う人は大勢いるのに、なぜだろう、と。実際、FHIで足の状態を数値化してみると、習慣的にトレーニングしている人たちであっても、かなり低いスコアが出る場合もある。自分の足が歩くのに十分な強さを持っているかどうかを知ってもらうために、足の能力を知ることはとても重要だと思います」(福地)

「FACTを受けてみて、歩き方がわかっていなかった、と痛感させられました。歩くことって、人生でいちばん最初にやることのひとつですよね? それをずっと間違ってやってきたなんて。なかなかに悪い知らせでしたよ(笑)。これは捻挫をしやすいという話にとどまらない、例えば寿命の話にもつながってくるわけですよね」(フィオナ)

「とくに歩行速度に関しては、心拍、呼吸数、血圧、体温、酸素飽和度に加わる『第6のバイタルサイン』といわれるようになっています。つまり、血圧や体温を測るのと同じ範疇に入ってきているということです。歩行速度の多くは膝から下──足と足首の強さからきていますが、歩行速度が落ち始めたとき、それは認知症のような疾患を7〜9年先まで予測しうる指標になるといわれています。足部の能力向上は、未来の疾患を予防したり、抑制したりするために、先回りして取り組めることでもあるのです」(コートニー)

使うか、失うか

フィオナさんとともにパネルディスカッションのモデレーターを務めたモノクルの編集者、ジョシュ・フェナートさんは、ディスカッションのなかで印象的な言葉を紹介しました。

「Use it or lose it」(使うか、失うか)

身体の機能や感覚は、長い間使わなければ、徐々に失われていく。コートニー博士による書籍『WALK』にも同様の表現が登場します(If you don’t use it, you will lose it)。足部の感覚受容と機能の維持は不可分の関係にありますが、もうひとつ付け加えたい重要な要素がシューズです。

足裏と路面の間に介在するシューズは、市場を見渡すと、足を優しく守り抜くマックスクッションのシューズが多く目に飛び込んできます。

コートニー博士はこう警鐘を鳴らします。

「現代の靴は、ロッカー構造(*01)や分厚いクッションで、いわば靴が歩かせてくれるようなところがあります。それはトレードオフでもあって、その分、足本来の機能を使っていないということでもあるわけです。『この靴はとても快適だから、良いものに違いない』と思いがちですが、一概にそうとも言い切れない、ということですね」

ストライドが共同開発した、ゼロドロップ(*02)、ワイドトゥボックス(*03)、高い柔軟性を備えたナチュラルフットウエアブランド「Notace(ノータス)」はそうしたシューズの対極に位置しています。つまり、ハイクッションのフォームやロッカーといった現代の多くのシューズに搭載されているテクノロジーを最小化することで、足が本来持つ動きに追従しやすい構造になっているということです。

かつて、ほとんどの日本人は、草鞋などの「はきもの」を履いて生活していました。アッパーとも、先細りのラストとも無縁で、すなわち「靴に足を合わせる」こととも無縁。1905年に米国の整形外科医であるPhil Hoffman(フィル・ホフマン)によって発表された論文でも、日本人は「現代のサンダル着用者(modern sandal-wearers)」として言及されています。

ダイレクトな結びつきはなくても、ノータスのようなナチュラルフットウエアには、ストレスフリーなかつての「はきもの」のDNAが継承されているともいえるのかもしれません。

パネルディスカッションの後半に、前述のジョシュがこう言いました。

「私たちはジャーナリストとして、後々ニュースになるような種や、大きな文化的転換点になるものを扱うことがあります。今日この場で私たちは、足の使い方や、その重要性に関する新しい情報を聞いたわけですが、世の中の反応はどうでしょうか。歩調は合ってきているのでしょうか? コートニー博士や孝さんの仕事を見ると、人々の準備は整っているようにみえます」

福地と、コートニー博士が登壇した「Health: walk it out」の終了後は、同行したストライド・リムーブの阿部勝彦が、来場者を対象に、同社が提供するフットコンディショニング・プログラム「FACT」を部分的に体験できるセッションを設けました。希望者には、ノータスのシューズが提供され、カンファレンス全体の終了時刻まで列が絶えないほどの賑わいを見せました。

ノータスのCEOであるCedric Scott(セドリック・スコット)とともに対応にあたった阿部はこう振り返ります。

「福地さんたちのセッションの直後から、だいたい5〜6時間くらい絶え間なくやっていましたね。ブースに来てくれた方のなかには、フィオナさんのように足の悩みを抱えていた方も少なくなかったです。もうひとつは、ほぼ全員が、それまで足のサイズに対して小さすぎる靴を選んでいたということですね。『カンファレンスでコートニーが言っていた通りだ』と口にする人がいたのは印象的でした。こちらから適切なサイズでノータスを提案すると驚いたような表情をする人も多かったです」

また、福地とコートニー博士のセッションの最後に設けられたQ&Aでは、質問者のひとりに、オランダから参加した、糖尿病とそれに伴う足病変を専門とする医師がいました。質問内容は、糖尿病患者で足病変を持つ人のなかには足部の感覚を失っている人もおり、どのような靴を勧めるべきか、というものでした。

カンファレンスには多くのオーディエンスが集まり、スピーカーの声に耳を傾けた。終了後、STRIDE ReMOVとNotaceによって行なわれた足の測定とシューズ提供は列ができるほどの賑わいをみせた

「ストライドは、医療従事者のチームではありません。でも、直接的に身体的な健康につながる仕事をしているという点では、医療に近いところにいるプレイヤーだと考えています。だからこそ、普段医療現場で患者さんと向き合う方が私たちの話に関心を示してくれるのは、やはり嬉しいことです」(福地)

「Longevity(寿命)」について考えることが、昨今ではあらゆる業界を横断するトピックとなっています。そうした背景から、今回のカンファレンスはストライドの提唱する「フットコンディショニング」の考え方が、モノクルという都市生活にフォーカスしたライフスタイルメディアを通じて、「Quality of Life」という文脈で紹介される大きな機会となりました。

このことは、これまでスポーツやトレーニング指導、運動力学といった分野で語られることの多かったフットコンディショニングという考え方が、より一般的なトピックとなる境界に差し掛かっているともいえるのかもしれません。

「すべての一歩を健康に。」をパーパスに、人の「移動」を支えるフットコンディショニングカンパニーとして活動するストライドグループは、今後も足を使うあらゆる活動と、その土台となるコンディショニングを支えてまいります。

写真提供:MONOCLE

 

*01_ロッカー構造:ソールの前後を船底のように湾曲させた設計。接地から蹴り出しまでの体重移動を靴の形状が誘導するため、足首や足指の動きが少なくても前に進める。

*02_ゼロドロップ:かかととつま先の高さに差がない設計。一般的な靴は前後に10mm前後の高低差があるが、それをなくすことで裸足に近い水平な姿勢で立ち、歩くことができる。

*03_ワイドトゥボックス:つま先部分を足の形に沿って広くとった設計。足指が自然に広がった状態を保てるため、接地時のバランスや蹴り出しに足指を使いやすくなる。

参照:

Courtney Conley, DC, and Milica McDowell, MS, DPT, “WALK Rediscover The Most Natural Way To Boost Your Health And Longevity – One Step At a Time”, balance, 2026

PHIL HOFFMAN. CONCLUSIONS DRAWN FROM A COMPARATIVE STUDY OF THE FEET OF BAREFOOTED AND SHOE-WEARING PEOPLES, The Journal of Bone and Joint Surgery, 1905, s2-3:105-136

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