「Stepping Back to Minimal Footwear: Applications across the Lifespan」
▶発表年:2021年
▶著者:Irene S. Davis, Karsten Hollander, Daniel E. Liebermanほか
人類の足は、進化の過程や環境変化のなかで形づくられ、履くものによって変わってきた器官です。その働きをめぐっては、力学、解剖学、進化人類学から臨床の現場まで、さまざまな角度から研究が重ねられてきました。「フットコンディショニング」はこうしたエビデンスに支えられています。このコラムでは理解を深めるために知っておきたい研究や論文を紹介していきます。
人類の足がいまの形になるまでに、およそ700万年。その時間のほとんどを、人類は裸足かサンダルですごしてきました。弾力のあるクッション入りのシューズが広まったのは1970年代のことで、人類の歴史から見ればつい昨日のことです。ハーバード大学の研究者らは、ここに「進化的ミスマッチ」があるのではないかと考えました。子どもの足の育ち方から、走るときの着地、高齢者のボディバランスまで。生涯を通じて足と履物の関係を見渡したこの総説は、足を守るはずの靴が、足からなにを奪っているのかを問いかけます。
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「裸足でいることが、人間にとっていちばん自然な状態である」——。この論文はそこから出発します。ハーバード大学の研究者らが、進化人類学から臨床現場まで幅広い研究を集め、クッションもサポートも持たない靴、いわゆる「ミニマルフットウエア」が生涯を通じて足の健康に寄与しうるという仮説を提示した総説です。
人類の足がいまの形になるまでには、およそ700万年かかったと言われています。チンパンジーと系統が分かれてから、かかとの骨は大きくなり、土踏まずができ、指は短くまっすぐになった。二本足で立ち、長い距離を歩き、走るための形です。そしてその時間のほとんど、人類は裸足かサンダルですごし、狩猟採集の暮らしでは1日9〜15kmを歩いていたと考えられています。いまのような弾力のあるクッション入りのシューズが普及しはじめたのは1970年代のこと。700万年の歴史から見れば、つい昨日のできごとです。
著者らはここに「進化的ミスマッチ」(体のつくりと環境が噛み合っていない状態)があるのではないかと指摘します。柔らかいソールは快適さと引き換えに、足裏が地面から受け取る情報を減らしてしまう。サポート機能は、足の筋肉が自分でがんばる必要性を低下させます。実際、そうした靴を履き続けている人は足の筋肉が細いというデータがあります。アーチサポートは、縦と横のアーチが沈み込む動きを抑え、足がバネのようにエネルギーをためる働きを起こりにくくする。こうしたズレが積み重なって、故障や変形につながっているのではないか。それが著者らの見立てです。
子どもの足の発達についても興味深い指摘があります。足の骨は10歳頃まで育ち、最終的な長さに達するのは女子で13歳、男子で15歳。外からの影響を受けやすい年齢でもあります。インドの3〜15歳2,300人を調べた研究では、扁平足がもっとも多かったのは靴を履いて育った子どもで、もっとも少なかったのは裸足の子どもでした。日本の学童を比べた研究でも、裸足のランニングプログラムを行なう学校の児童は、足の中ほどや前方で接地して走る割合が高く、跳躍とスプリントの成績が良かったといいます。
著者らは、足をある程度保護しながらも裸足での活動を再現できるミニマルフットウエアが、子どもの足には最適になりうると述べています。ただ、若年層向けの履物の推奨に取り上げられることは、いまだに少ないのが現状です。
大人では、走るときの着地が主な論点になります。踵から着地すると衝撃が急に立ち上がり、その荷重は、すねの疲労骨折や膝の前側の痛み、足底腱膜炎といった、一般的なランニング障害と関連づけられてきました。接地の仕方を変える訓練によって、こうした痛みが実際に軽くなったという報告も紹介されています。
筋肉への影響は、いちばん多く調べられてきた部分です。8週間かけて少しずつミニマルフットウエアで歩く量を増やした研究では、専用の足部トレーニングと同等の変化が起きています。逆に足底装具(インソール)を12週間使い続けた研究では、足の中の小さな筋肉(内在筋)が10〜17%縮んでいます。使えば育ち、使わなければ細る、というシンプルな話でもあります。
年齢が上がると、足裏感覚はバランスを保つうえでいっそう大切になります。ミニマルフットウエアと一般的な靴を比べた研究では、ミニマルフットウエアのほうが立ち上がって歩くテストの成績が良く、体の揺れも小さく、裸足のときとほぼ同じでした。高齢者に多い「変形性膝関節症」でも、6カ月間の比較試験で、薄くて柔らかい平らな靴を履いたグループは痛みが66%、日常生活のしやすさが63%改善しています。
ただし著者らが繰り返しているのは、急に切り替えないこと。従来の靴に慣れた人が急にミニマルフットウエアに変えて、疲労骨折やアキレス腱の痛みを起こした報告があります。またこの論文は総説で、集めた研究の確かさには幅があり、大規模な検証はこれからだと著者ら自身が書いています。それでも、足を守るはずの靴が足からなにを奪っているのか。その問いを立てたことに、この論文の重要性があると言えるでしょう。
<出典>
Davis IS, Hollander K, Lieberman DE, Ridge ST, Sacco ICN, Wearing SC. Stepping Back to Minimal Footwear: Applications Across the Lifespan. Exerc Sport Sci Rev. 2021;49(4):228-243. DOI: 10.1249/JES.0000000000000263