人間の足は長い時間をかけて効率よく移動できるカタチへと進化しました。
足は身体の土台であるだけでなく、姿勢や動きを調整する重要なセンサーの役割も備え、文字どおり私たちの生活を支えています。
とはいえ、ライフスタイルの変化やテクノロジーの進展など複合的な環境要因が、ヒトの足にも大きな影響を及ぼしてきました。その影響はポジティブなものだけではありません。外反母趾を始めとした足の変形や、感覚器官としての足の衰えはそうした例といえるでしょう。
足部機能の衰えは、運動や、普段の移動そのものに影響を及ぼしかねません。結果として、身体の構造にズレが生じてケガをしやすくなったり、歩行速度の低下や運動不足による身体疾患のリスクが高まったりする懸念もあります。
それにもかかわらず、自分の足の状態を的確に捉えるための指標は整備されてこなかったのが実情です。自分の足はいまどういう状態にあるのか。それを正しく捉え、良い方向に導くためになにをすればよいのか。
STRIDE(ストライド)が、グループ企業であるSTRIDE ReMOV(ストライド・リムーブ)と構築した「フットヘルス・インデックス(Foot Health Index=FHI)」は、複雑な構造をもつ足を3つの要素、6つのテスト項目で複合的に評価し、足の状態を数値化する新指標です。
ストライドが提案する「フットコンディショニング」を紐解く連載の第2回は、足の役割とその重要性について。足がどういう仕組みで働いているのか、そしてその崩れがどこまで連鎖していくのかを、FHIの構築を主導した、ストライド・リムーブ取締役の阿部勝彦が解説します。
人間は効率良く、長く歩けるように進化してきた
人間は二足歩行をする生き物です。
その土台となる足は、進化を重ねていまのカタチにたどり着きました。類人猿のようにモノを掴むための足から、獲物を追い、敵から逃れるために「移動」に徹する足へ。人間の足は、そうして生まれ変わった器官です。
手と足の大きなちがいのひとつが、骨の配列です。
母趾(親指)につながる中足骨から楔状骨(けつじょうこつ)までを第一列と呼びます。人差し指が第二列です。第一列と第二列は、もともとは手と同じように広がっていましたが、長い年月をかけてほぼ並列になりました。なにかを掴むために広がっていたものが並列になり、また関節やアーチ、アキレス腱などの細部が適正に進化したことで、直線方向に効率良く移動できるようになったというわけです。
こうしてできた人間の足には、私たちが運動指導の現場で「4つのロッカー」と呼んでいるロッカー機能が備わっています。歩行はそれぞれの動作がスムーズに連動して成り立っています。
連動はかかとが接地することからはじまります。かかとの骨は丸く、転がるようにできていて、接地したときに前方に転がります。これがヒールロッカー。
次が足首です。足首の距骨(きょこつ)も丸くなっていて、その上のすねの骨、脛骨(けいこつ)はそれを受けるような形状で転がるようになっています。これがアンクルロッカー。
3つ目がフォアフットロッカーです。足指の付け根の関節──中足趾節関節(ちゅうそくしせつかんせつ)=MTP関節──で、やはり転がるような構造をしています。このMTP関節の屈曲・伸展はとても大切です。手で握りこぶしをつくるように足指を下に曲げたり、上に反らせるように背屈させる動きがうまく出ていないとロッカー機能が十分に使えず、疲れやすくなってしまいます。
最後がトウロッカーで、つま先の先端で転がるように地面を押し出します。
この4つのロッカーが適切に使えれば、エネルギーもあまり必要としません。大きな力は必要とせず、足を高く上げる必要もなく、転がるように歩くことができます。
歩行に必要な関節の動きは、じつはそれほど大きくありません。股関節を後ろに伸ばす動きも、足首を反らせる背屈も、10度ほどあれば歩けるといわれています。股関節の伸展は本来20度前後、足首の背屈は立った状態で45度前後まで動きますから、歩行で使うのはそのごく一部です。
ただし、「10度だけ動けばよい」ということではありません。本来の可動域にゆとりがあるからこそ、歩行に使う10度を力まずスムーズに使うことができます。逆に、可動域が狭くなれば、一歩ごとに関節を限界近くまで使うことになり、歩行の効率は落ちてしまいます。必要な可動域は小さくても、それを効率よく使うためには、本来の可動域を保っておくことが大切なのです。
人間は、長い距離を移動することにもっとも適した動物のひとつです。歩行は本来、小さなエネルギーでできる動作のはずなので、それがラクにできなくなっているとしたら、どこかに問題があるということです。
腰痛の原因は足にあるかもしれない
足の悩みにもいろいろなものがありますが、STRIDE ReMOV STUDIO(*01)にお越しになるお客さまに多いのは、アーチの崩れ、扁平足、外反母趾などです。こうして並べてみると局所的な悩みのようにも見えますが、これらが他の部位のトラブルの要因になっていることも多いのです。
体格の違いや筋肉の付き方、歩き方の癖、履いている靴や生活環境などさまざまな要因が絡んでいるので、症状には個人差があります。
それでも、共通する道筋はあります。骨格の配列(アライメント)のズレによる「運動連鎖」です。ズレによって代償動作(*02)が起きて、連鎖的に痛みなどのトラブルが生じるケースです。人間の身体は骨と筋膜でつながっているので、たとえばアーチの崩れがアライメントのズレを引き起こすと、身体のほかの部分に連鎖してしまうのです。
足裏には3つのアーチがあります。「内側縦アーチ」「外側縦アーチ」そして「横アーチ」ですね。このうち内側のアーチが崩れると、脛骨も内側に傾いてしまいます。脛骨が内旋すると、膝も内に入りやすくなり、大腿骨も内旋しやすくなります。そうすると寛骨(かんこつ)、いわゆる骨盤の部分も前傾してしまいます。骨盤が前傾することによって、腰椎の反り(前弯)が強まりやすくなります。そうなると腰の痛みにつながる可能性がある、というふうに連鎖します。
扁平足も内側のアーチがないので同じような状態で、いずれも足裏のアーチが担っている衝撃吸収の機能が弱くなります。
足裏内側のアーチは、接地するとたわんで衝撃を吸収します。その後、元に戻ろうとする弾性で剛性を高め、それが推進力につながりますが、内側アーチが崩れていたり、扁平足だったりすると、この力を発揮する効率が悪くなります。
足首から下の足部は、身体のなかでは小さいエリアなので、力を発揮する割合も大きくはありません。
ジャンプやダッシュのように下半身が大きな力を出す動作では、力の大きさは股関節、太もも(大腿)、膝から下(下腿)の順になります。
もっとも割合の小さな下腿のなかでもメインの動力源は、ふくらはぎのヒラメ筋や腓腹筋、そして足趾を動かす長趾屈筋などの「外在筋」──いずれも膝から下にある筋肉です。つまり、膝から下で生み出される力の大半は下腿の筋肉によるもので、足首から下の「足部」そのものが発揮する力は、ごくわずかなのです。
ただ、例えば外反母趾などによって足裏のアーチがくずれていたり、足指、足首の柔軟性が低下していたりすると、足部内の「内在筋」といわれる筋肉が効率的に駆動できず、足部が本来の役割を果たすことができません。その分を身体の別部位で補わなくてはいけませんが、多くの場合、それはふくらはぎになります。
歩いた後にふくらはぎが張ったり、走った後にアキレス腱が痛くなったりするとしたら、足部の機能不全が原因になって、負担がかかっているのかもしれません。そのまま動き続けていると、運動連鎖によって膝や股関節といった上位関節に影響が出て、ケガにつながる可能性が高まります。
痛みが出ている場所と、実際に原因のある場所は必ずしもいつも同じではありません。発揮するパワーは小さくても、じつは、身体全体への影響が大きいのが足。この機会に、見落とされがちな動作の起点に目を向けてみてはいかがでしょうか。
*01_STRIDE ReMOV STUDIO:ストライド・リムーブが拠点とする東京・人形町の運動施設。足部をはじめとする身体機能を測定し、状態を数値として客観的に把握。その結果に基づき、トレーニングや動作改善を通して、足元から身体全体の動きを整えるための測定、セッションを提供している。
*02_代償動作:本来その動きを担う部位が、痛みや機能の低下によって十分に働けないとき、別の部位や動きでその役割を肩代わりすること。動作そのものは成立するため気づきにくいが、負担は肩代わりした側に移る。足の機能が落ちると、膝や股関節、腰がそれを補おうとする。