STRIDE代表 福地孝 × ALTRA 共同創業者 ブライアン・ベックステッド
身体の土台である足の仕組みや身体全体との関連性を知り、自らの足の現状を知り、一歩一歩の質をあげていくための方向性を探っていく。その過程のなかで、欠かせないパートナーとなるのがシューズです。足を見つめ直すことと、シューズを再考することは不可分の関係なのです。
STRIDE(ストライド)が創業以来紹介してきたのは、「ナチュラルフットウエア」と呼ばれるカテゴリーのシューズです。シンプルにいえば、足がもつ本来の機能や動きを阻害しないシューズのことですが、その“程度”には幅があり、履く人の足や身体の状態に合わせて使い分けることができるようになっています。そのなかでも、国内外で幅広く受け入れられているブランドのひとつが米国の「ALTRA」(アルトラ)といえるでしょう。
ストライド代表、福地孝と、今年の7月に来日した、アルトラの共同創業者、ブライアン・ベックステッド氏の対談をお届けします。
300足でスタートしたアルトラの日本展開
──最初におふたりの出会いについて教えてください。
ALTRA共同創業者 ブライアン・ベックステッド(以下、ブライアン):最初のきっかけは、2011年1月にユタ州ソルトレイクシティであった見本市「アウトドア・リテイラー」(*01)でしたね。
ストライド代表 福地孝(以下、福地):そうですね。よく覚えています。
ブライアン:タカシがブースに来たとき、わたしたちに話しかけようともせず、あるシューズをじっくりと見ていたんです。それが初代のLONE PEAK(ローンピーク)でした。そしてこう言ったんです。「これを日本で販売したい」と。正直、面食らいました。当時、アルトラとして最初のモデルであるINSTINCT(インスティンクト)を4月に発売したものの、ごく小規模な出荷分しか用意する資金がなく、3週間で売り切れてしまって、夏のあいだはロードもトレイルも在庫ゼロという状態でした。米国での本格的な販売を再開して、まだ1〜2カ月というタイミングだったんです。
福地:見本市で初めてアルトラを見たとき、他のシューズとの違いは一目瞭然で、その革新性を認識するのに時間はかかりませんでした。ブライアンからゼロドロップとフットシェイプの構想に行き着くまでのプロセスを聞いて、一気に魅了されたんです。それからアルトラについて、当時調べられる限りの情報を集めました。
ブライアン:はじめのうちは、タカシはローンピークのようなトレイルシューズに注目していたんです。いまではアルトラのシューズは、世界全体でみればロードシューズがトレンドになっていますが、初期のころはトレイルランナーやハイカーから先に受け入れられていったように思います。
福地:トレイルランニングの世界には、新しいものを求める感度が高く、チャレンジ精神にあふれた人も多いですからね。そうした方々にまずアルトラの良さを知ってほしいと考えていました。
ブライアン:忘れがたいのは、その後、日本での展開について何度もやりとりをするなかで、彼はなんと我々の倉庫の位置を突き止めてしまったのです。「え、どうして場所を知っているんだ……」という質問への応えもそこそこに、「ローンピークを300足仕入れたい。今週中にレンタルトラックで取りに行く」と(笑)。
福地:ははは、その当時はロサンゼルスに住んでいたから、トラックを借りれば行ける、と思ったんですよ。いろいろリサーチするなかで、ショーでアルトラを初めてみたときの衝撃は、確信に変わっていたんです。
ブライアン:タカシの積極的な働きかけのおかげで、日本は米国外で初めてアルトラを販売した国になりました。振り返ってみれば、当時の私たちは、大手のランニングシューズメーカーと渡り合えると本気で信じていて、この15年あまりで、それが間違ってはいなかったと証明してきたように思います。
──最初から「シューズを通じて業界を変える」という点で意気投合していたのですね。
ブライアン:それがすべてでした。「ALTRA」というブランドネーム自体、ルーツはラテン語にあって、「変える」「修繕する」という意味があります。足の故障に悩む人々の足を良くする、そしてフットウエア業界を変える。それは出会った当時のタカシと共有した価値観でもあったんです。
フットコンディショニングとフットウエア
──足の悩みを抱える人に向けた革新的なシューズをつくる立場、そしてそうしたシューズを見つけてきた立場。おふたりにとっての「良いフットコンディショニング」とはなんでしょうか?
福地:「フットコンディショニング」とはいわば、足の正常な状態を保持したり、再建したりする実践のすべてを包括する言葉だといえます。とはいえ、「フットコンディショニング」という言葉自体、まだ聞き慣れない方も多いかもしれません。どちらかといえば「フットヘルス」という言葉のほうが、直感的で、わかりやすく、一般的だといえるでしょう。でも、あえて「フットコンディショニング」と表現する理由は、ストライドとしては「環境づくり」を重視したいと考えているからです。
──環境づくり、ですか。
福地:はい。わたしたちは医療機関ではありません。ですから、診察をしたり、薬を処方したりといった直接的な方法で疾患を「治す」ことはできない。それでも、足の仕組みや、フットウエアについて培ってきた専門的な知識や経験があるので、足の変形にともなう身体のトラブルにお客様が自ら気づいたり、その改善をサポートしたり、といった環境を整えることが私たちにできることだと思っているんです。そのなかでも重要な要素のひとつが「シューズ選択」だと思います。
ブライアン:足のことを考えるときにわたしたちが良く使う例えがあります。建物を建てるとき、まずは基礎からつくりますよね。人間の身体において足はすべての土台なので、そこが歪んでいると故障も起こりやすくなります。
また、長い時間歩いたり、走ったりする際、シューズの前足部(つま先)に十分なスペースがあることも重要なポイントです。足の指が広がる余地がシューズの中にあることで、足裏のアーチが機能しやすくなり、足が本来持っている衝撃吸収機能や、バランス感覚、前に進むためのバネ構造を生かしやすくなります。また、ハンマートゥのような足指のトラブルを予防することにも寄与するはずです。
人によっては順応に多少の時間を要する場合もあるかもしれませんが、こうした要素を備えたシューズを選ぶことで、人の足は少しずつ、強くなっていくはずです。
福地:「足が身体の土台である」というのは、「フットコンディショニング」を考える上で、もっとも大切なポイントです。一方で現実的には、外反母趾をはじめとして、多くの人々が足の変形を抱えているというのもまた事実です。土台に歪みが生じているわけですから、医療従事者ではなくても、「なにかがおかしい」と想像することができるはず。
今日、都市部で生活する人々は基本的に靴を履いて生活しているので、本来の足の形に沿った「フットシェイプ」や、「ゼロドロップ」の大切さは直感的に理解することができるのではないかと思います。
実際のところ、アルトラのようにゼロドロップでつま先が広いシューズを履いても、自動的に外反母趾や内反小趾、ハンマートゥが治るわけではありませんが、その気付きをひとりでも多くの人に感じて頂けたらと思っています。
──本来あるべき姿勢に立ち返るということですね。
ブライアン:そうですね。身体の土台である足に寄り添ったシューズが、長期的に見れば健康的で、より自然であるということです。アルトラに関していえば、従来のシューズに代わる健康的な選択肢だと思っていますし、それが私たちがつくるシューズのユニークさでもあると思います。
脳はシューズを学習している?
福地:そこで思い浮かぶのが、店頭でお客様が初めてアルトラのゼロドロップシューズを試着したときの反応です。シューズを履いて立ち上がると、一瞬、後ろに倒れそうになってしまう方が、けっして少なくないのです。これはとても不思議なことで、裸足で立っているときはそんなことは起きないのに、“裸足で立っている状態に近い靴”を履くと後ろに荷重がかかってしまう。これはなぜなんだろうと。
この状態は脳内である種の制御システムが働いているために起こっていると考えられています。多くのシューズは10mmほどドロップがある(=かかとが10mm高い)のですが、そうした靴に慣れている人の脳は、(前に倒れないようにするために)重心をやや後ろに置くように認識しているようなんです。だからゼロドロップシューズを履くときも、靴を履いた時点で脳の制御が働いて、無意識に後ろに荷重してしまい、後方に倒れそうになってしまうということです。脳は毎日、日々の行動や周辺環境を学習していて、その対象は履く物にも及んでいるということですね。
ブライアン:興味深いですね。
福地:フットウエアは毎日、それも10時間、12時間と長時間履くものです。だから人間の認識は、その形状から大きな影響を受けていると考えるのが自然です。たとえば、シューズの前足部が狭いと、親指をしっかり使えません。だからアーチが落ちて、必要以上のサポートが必要になる。逆にミニマルなフットウエアを履いていると、正しい足部のアライメントを身体が学習して、結果的に、より強いアーチが形成されやすくなるはずです。踵の上がった靴に慣れている人が初めてゼロドロップの靴を履いたときに後ろに倒れそうになってしまうことからもわかるように、身体は環境からの影響を常に受けています。だからこそ、自分の足にとって最適なシューズはなんなのか、新しい選択肢を探ってみることが大切ではないかと思います。
ブライアン:個人的な話をすると、私は生まれつき側弯(そくわん)症で背骨が曲がっています。その影響で長らく腰のトラブルに悩まされてきました。ランニングを本格的に始めた学生時代には、そうした身体のズレが原因で多くのケガに悩まされました。その後、アルトラを立ち上げてから、計60本以上、マラソンやウルトラマラソンを走ってきましたが、ランニングによる故障は一度もありません。
福地:アルトラを始めたころ、ブライアンは相当なエリートランナーでしたからね。
ブライアン:“準エリート”くらいですね。いくつかのレースでは優勝経験もあります。優勝はしていないけれど、思い出深いレースには、タカシのサポートを受けて走った日本の「信越五岳トレイルレース」や「UTMF(ウルトラ・トレイル・マウント・フジ)」(現Mt. Fuji 100)も含まれています。
福地:そのすべてを、トレーニングを含めて故障もなく走っているんですよね。
ブライアン:ええ。背骨が37度曲がっているのに。
アルトラを立ち上げる前、既存のシューズの改良を始めた(*02)ときに、身体のズレとランニング障害の発生は密接に関わっていると、頭のなかでカチッとつながったのです。それ以来、ゼロドロップ/ロードロップはアルトラにとって核ともいえる構造です。
──ゼロドロップ(0mm)か、ロードロップ(4mm)のふたつの選択肢が、いまの最適解ということですよね。一方で、伝統的なスポーツシューズブランドの多くは、踵とつま先の差が10mm前後あるモデルが主要な製品ではないですか?
ブライアン:そうですね。ただ、状況は変わってきています。私たちがアルトラをスタートした当初は、市場にあるランニングシューズを見渡してみても、ほぼすべてが12mm程度のドロップがありましたが、アルトラに追随するように、10mm、8mm、6mm、4mmと、低ドロップのモデルが増えてきているのも事実です。実際、2026年4月に男子のフルマラソンで世界記録が更新(*03)されましたが、そのときに使用されたシューズのドロップは3mmでした。
福地:本当ですか。
ブライアン:ええ。彼らはゼロドロップのランニングシューズは作っていないかもしれませんが、発売するシューズのドロップは下がってきているといえます。その理由はシンプルで、走るうえでそのほうがより良く機能するからです。
足に任せるという考え方
ブライアン:また、アルトラのシューズのアウトソールは、足裏全体がフラットに接地することができるようになっています。一方で、伝統的なランニングシューズブランドは、かつてアーチの部分を削り、剛性の高いパーツを装着したシューズをつくっていた時期がありました。安定性を高めたり、推進力を得たりするための補助でもあったわけですが、いまではそうしたシューズは市場からは姿を消しています。
福地:人工的に足部の剛性を高めようとしたり、足の柔軟な動きを阻害してしまうようなシューズはうまく機能しないということですね。足の指、とくに親指がしっかり使えていれば、足が元々持っている機能を引き出しやすくなるということを人々が理解し始めて、状況はだいぶ改善されてきたと思います。
──人々の認識も少しずつアップデートされているということですね。
福地:そうですね。例えば、アルトラを日本で展開し始めた約15年前、登山をする人の大半はレザー製でハイカットのトレッキングシューズを履いていました。登山では「足を保護することがとても大切だ」という認識があったからです。「保護する」というのは、足本来の機能をあまり使わずにシューズに任せるということです。耐久性に優れた素材を採用し、足首の可動域を固定する。それが「安全なフットウエア」だったのです。ただ、いまでは山に行くと、多くの方がトレイルランニングシューズを履いていて、アルトラのローンピークやOLYMPUS(オリンパス)をよく見かけます。
「安全」という言葉について突き詰めて考えていくと、シューズに任せるよりも、そもそも足自体が安定していれば、捻挫や膝痛、腰痛も含めた山行中のケガのリスクは劇的に減少するはずです。
──専門家と一般の方の間に、認識のギャップはまだまだありますか。
福地:おもしろいことに、マラソンのレースでアルトラを履いて優勝する選手は、まだ見たことがありません。トップアスリートはブランドとの契約もありますし、レースではドロップがあり、反発性の高いカーボンプレート入りのレースシューズを使用する傾向にあります。一方で、皇居外周の5kmを毎日走っているような方々のほうが、フットコンディショニングをよく理解し、気にかけている場合がある。彼らの多くは次のオリンピックを目指しているわけではなく、より健康になるために走っている。だからこそ、足を健康に保つことの重要性を評価してくれるのだと思います。
ブライアン:長期的な健康とパフォーマンスは、じつは別のトピックなんですよね。もちろんアルトラにも、ロードでいえばVanish Carbon(バニッシュカーボン)、トレイルでいえばMont Blanc(モンブラン)シリーズのように、優れたパフォーマンスシューズのラインナップはあります。そのうえで、専門家が理解していて一般の方に届いていないことをひとつ挙げるなら、足の変形はフットウエアを変えても一朝一夕には治らない、ということでしょうか。魔法の薬はありません。時間と努力が必要です。
だからこそ、フットヘルスについての啓発は必要です。米国でいえば、足病医やカイロプラクター、クリニックといった医療コミュニティが、処方ではないにせよ健康上のメリットからアルトラを勧めてくれるケースが増えています。最近では、ストライドとも協業しているGait Happens(ゲイトハプンズ)と、長期的な視野で協業していくことになっています。私たちはシューズづくりを、彼らは足の健康に関する教育に集中できるような体制を目指しています。
──良いシューズの選択と、身体に関する知識を得ることは両輪ということですね。
ブライアン:ええ。加えて重要なのは、いま履いている靴が「快適かどうか」という視点ですね。アルトラのシューズ開発で重視しているポイントは「バランス」「ストレングス」そして「コンフォート(快適さ)」の3つで、それは「フットコンディショニング」で目指すところとも一致しているのではないでしょうか。
福地:まさにそのとおりですね。
ブライアン:カナダのカルガリー大学キネシオロジー学部のヒューマン・パフォーマンス研究室を率いた生体力学者、Benno Nigg(ベノ・ニッグ)氏が2015年に発表した論文(*04)が興味深いです。それまで障害の原因と考えられてきたプロネーションや着地衝撃について過去の研究を洗い直したところ、どちらもケガとの関連が確認できなかった。そこで彼が示したのが「コンフォート・フィルター」という考え方でした。ランナーは自分の感覚で快適な靴を選んでおり、それ自体が結果的にケガのリスクを下げているのではないか、と。つまり、足を入れたときの第一印象で「快適かどうか」がとても重要だということです。
アメリカでは、7割以上(*05)の人が人生のある時点で足の痛みを経験すると報告されています。その割合を下げることが、アルトラの目指すところです。
──おふたりが初めて会ってから、約15年が経ちました。いまの関係をどう思いますか。
ブライアン:タカシと初めて会ったとき、これほど親しい友人になり、多くの仕事を共にすることになるとは、まったく想像していませんでした。アルトラ創業当時の私は父の家を担保に入れていて、まさにその日暮らしの状態でした。まして日本を訪れるなんて到底考えられなかったんです。すばらしい15年でしたし、次の15年も同じように続くことを願っています。
福地:それでも、私たちが共有しているミッションは、あのころと同じままですね。
ブライアン:ええ。なにがすばらしいシューズなのか、なにに注力するのか。その信念は15年間、一貫しています。
さらに思うのは、足という部位が、健康の文脈で、社会のなかであまりに語られてこなかったということです。筋力トレーニングや栄養、最近では睡眠にも大きな注目が集まっている。私たちは食事について、栄養価の高い食べ物を摂ったりジャンクフードを避けたりすることについては、いつも話しています。では、足について同じくらい話しているかというと、話していません。でも、もっと語られるべきだと思うんです。
福地:土台なのにもかかわらず、見過ごされてきた部位です。まだ、やるべきことはたくさんありますね。
*01_アウトドア・リテイラー:米国最大級のアウトドア業界向け見本市。長らくユタ州ソルトレイクシティで冬季(1月)と夏季(8月)の年2回開催されてきた
*02_既存のシューズの改良:アルトラ共同創業者のゴールデン・ハーパー氏は、両親が営むランニングシューズ店で、市販シューズをトースターオーブンで温めてミッドソールを切り出し、踵の傾斜を削って改造していた。これがゼロドロップの原型となった
*03_マラソン世界記録:2026年4月26日、ケニアのサバスティアン・サウェが1時間59分30秒で優勝し、公認レースで史上初めて2時間を切る世界記録を樹立した。使用シューズはadidasのADIZERO ADIOS PRO EVO 3で、ドロップは3mmだった
*04_コンフォート・フィルター:ランニング障害の原因と長く考えられてきた足のプロネーションと着地衝撃について過去の研究を検証し、いずれも障害発生との明確な関連が認められないことを示したうえで、「preferred movement path(好ましい動きの経路)」と「comfort filter(快適さのフィルター)」というふたつの新たな枠組みを提唱した論文。ランナーは自身の快適さの感覚によって無意識に靴を選んでおり、それが結果として障害リスクを下げている可能性があるとする。Benno M. Nigg ほか「Running shoes and running injuries: mythbusting and a proposal for two new paradigms: ‘preferred movement path’ and ‘comfort filter’」(British Journal of Sports Medicine, 2015年49巻20号)https://bjsm.bmj.com/content/49/20/1290
*05_米国における足の痛み:米国足病医学会(APMA)が18歳以上の成人1,000名を対象に実施した意識調査。回答者の77%が足の痛みを経験したことがあると答えた一方、専門医である足病医の受診を考えるのはそのうち3分の1にとどまった。American Podiatric Medical Association「Today’s Podiatrist Survey」(2014年)