人間の足は長い時間をかけて効率よく移動できるカタチへと進化しました。

足は身体の土台であるだけでなく、姿勢や動きを調整する重要なセンサーの役割も備え、文字どおり私たちの生活を支えています。

とはいえ、ライフスタイルの変化やテクノロジーの進展など複合的な環境要因が、ヒトの足にも大きな影響を及ぼしてきました。その影響はポジティブなものだけではありません。外反母趾を始めとした足の変形や、感覚器官としての足の衰えはそうした例といえるでしょう。

足部機能の衰えは、運動や、普段の移動そのものに影響を及ぼしかねません。結果として、身体の構造にズレが生じてケガをしやすくなったり、歩行速度の低下や運動不足による身体疾患のリスクが高まったりする懸念もあります。

それにもかかわらず、自分の足の状態を的確に捉えるための指標は整備されてこなかったのが実情です。自分の足はいまどういう状態にあるのか。それを正しく捉え、良い方向に導くためになにをすればよいのか。

STRIDE(ストライド)が、グループ企業であるSTRIDE ReMOV(ストライド・リムーブ)と構築した「フットヘルス・インデックス(Foot Health Index=FHI)」は、複雑な構造をもつ足を3つの要素、6つのテスト項目で複合的に評価し、足の状態を数値化する新指標です。

ストライドが提案する「フットコンディショニング」を紐解く連載。前回は、足の構造をはじめ、歩くときに足が転がるように働く「ロッカー機能」があるということ、そして土台である足のバランスが崩れると、負担が膝や腰といった上位関節へと連鎖しうることを見てきました。今回は、足のもうひとつの大切な役割である「センサー」としての働きと、その状態を測ることについて紐解いていきます。

ストライド・リムーブ取締役 阿部勝彦

足はセンサーでもある

足は土台であると同時にセンサーでもあります。

手と同じように感覚を司る器官で、神経終末が20万個くらいあるといわれていて、いろいろな形状のものを認識できる機能があります。しかし、現代の生活環境は、その機能を必要としないほど整いすぎています。

前編で、足には歩行をなめらかに行なうために進化してきた「ロッカー機能」があるという話をしました。でも、現代では都市部の道路は平らに舗装されていますから、多くの人が日常生活ではそれほど苦労することなく歩けてしまいます。

平坦な道を歩くだけなら足の動きは単調になり、複雑な動きができるはずの足も、その機能を発揮することがなくなります。さらに、クッションの厚い靴を履いていれば、足裏が路面から受けとる情報は制限されていきます。人間の身体は環境に適応するので、これが長く続くと足に備わっているセンサー機能も衰えていきます。

足の裏や下肢の関節、体幹などにある感覚受容器から脳に届く情報のことを「体性感覚」といいますが、人がバランスを取ったり、姿勢を制御したりするときに重要な働きをします。地面の状態や、足のどこに重心が乗っているかを把握する、大切な感覚です。

これに、耳の奥にある内耳が担う平衡感覚(前庭機能)と、視覚が加わります。この3つが正しく連携することが、二足で立ち、歩き、走るときにバランスを保つうえでの理想です。

足裏を含めた「体性感覚」は、意識せずとも適切にバランスを取りながら立ち、歩き、走る上で大きなウェイトを占めている

安定した地面に立っているとき、健常な人はおおよそ体性感覚7:前庭2:視覚1の割合で情報を使っているとされています。ところが現場で多くの足を見ていると、足の機能がうまく使えず、このバランスが崩れている人が少なくないと感じます。

これらの感覚を個別に詳細に測定するのは難しいのですが、体性感覚や視覚にどの程度頼っているかを確かめるために、臨床現場でも広く使われているロンベルグテスト(*01)というものがあります。

私たちが開発した、足部のステータスを測るフット・アンクル・コンプレックステスティング(Foot Ankle Complex Test =FACT:*02)にもこれをアレンジしたものを採用しました。目を開けて片足で30秒立ち、次に目を閉じて同じように片足で30秒立つというテストです。

多くの方が、目を閉じたときにバランスを崩します。それ自体はふつうのことなのですが、たとえばその程度が基準値から大きく乖離していると、本来足が担うべき役割を視覚が補完している、言い換えれば、体性感覚が鈍っている可能性があります。

FACTではこのほかに5つ、全部で6項目のテストを行ない、総合スコア=「フットヘルス・インデックス」を算出します。こうして自分の足の状態を可視化し、より良い状態を目指して整えていくのが、ストライドが提案するフットコンディショニングの取り組みです。

FACT(=Foot Ankle Complex Test)の一環として、足趾のパワーを測る「Foot Strength Test」は特殊なデバイスを用いて行われ、計測値が即座にデータ化される

足元から身体を見直す

トップアスリートから一般の方まで、これまで多くの足を見てきましたが、どこにもエラーがない完璧な足というのは、まずありません。ですから、程度の差はあっても、すべての人が自分の足の状態を知り、シューズ選択や運動指導を受ける余地があるといえます。

しかし、痛みのような不具合が出ていない時点でエラーを見抜くのは簡単ではありません。また、なにか問題が起きていたとしても、その原因が簡単には掴めないことも少なくありません。

たとえば、多くのスポーツは靴を履いて行なわれます。どんなに優れた指導者でも、靴で覆われてしまうと足指のカタチや、その動きを見ることはできません。

過去に指導していたなかに、こんな選手がいました。

パフォーマンスは高く、走行フォーム、ジャンプ動作、下肢のアライメント──見た目には非の打ちどころがない。それなのに、ケガが多発するのです。問題は、ケガの原因となる「受傷機転」がなかなかわからないことでした。

ふだん運動をしない方がいきなり全力で走ってハムストリングスを痛めたとなれば、運動負荷が急激に高まったからだとわかります。しかしその選手の場合は、

「なんでここをケガするの?」

と、私たち専門家も首をかしげてしまうような、納得しにくいものでした。

たとえば、日常のごくふつうの動作で股関節を痛めてしまう。

「いつもと違うことをした?」と聞いても、
「いえ、なにも変わりません」と。

そこで、靴を脱いで裸足で立ってもらうと、外反母趾があり、アーチも落ちていたのです。しかも、片足でバランスを取らせてみても、うまく立てない。

上肢と下肢の動きが美しくても、その土台である足がうまく働かず、身体のどこかがずっと肩代わりしていたのです。それがある日、股関節や別の部位に痛みとして現れる。おそらく、そういう連鎖が起きていたのです。

原因がわかれば、対策も立てられます。足指のアライメントとアーチ機能を整えていくことで、身体全体のバランスが変わり、その選手のケースでは、ケガの発生も明らかに減っていきました。

足の代償動作は、足だけの問題では終わりません。その負担は上の関節へと移り、やがて身体全体の働きにまで及びます。これはこの選手だけの話ではなく、私たちが足に目を向ける理由そのものだと感じています。

FACTを通じて、これまで見えづらかった足部の状態と全身への影響を可視化する

*01_ロンベルグテスト:ドイツの神経内科医であるモーリッツ・ハインリッヒ・ロンベルグが見いだした、ロンベルグ徴候を調べるためのテスト。ロンベルグ徴候とは、開眼立位時よりも閉眼立位時に身体の動揺が大きくなり最後は転倒に至る現象。テストは両足を揃え、開眼で30秒立ったときの安定性を確認。次に閉眼で30秒立ち、開眼時との動揺の変化を観察する。FACTではこれを片足で行ない、各足の開眼時と閉眼時の足圧中心面積を測定し、バランス力や安定性の評価を行なっている。

*02_FACT:Foot Ankle Complex Testの頭文字で、「構造」「機能」「バランス」の3点から足の状態を数値化するテスト。過去に行なった運動指導やエビデンスをベースに阿部が考案した6つのテストからなる。テストから総合的に算出した数値がフットヘルス・インデックスで、足の健康度や強さを測る指標となる。

この記事の著者

阿部 勝彦(あべ・かつひこ)

株式会社ストライド・リムーブ取締役

アメリカのEXOSを皮切りに、MLBやNHL選手をはじめとするトップアスリートの指導に従事。その後、バスケットボール日本代表や東京ヤクルトスワローズのトレーニングコーチを歴任するなど、約20年にわたりハイパフォーマンス領域で活動。現在はSTRIDE ReMOVを立ち上げ、競技者から一般の方まで、足に対する教育と認知を広める事業に取り組んでいる。

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