【研究コラム】知っておきたい足元学③「歩行時における母趾伸展が足に与える影響」

「The Influence of Hallux Extension on the Foot During Ambulation」
▶発表年:1984年
▶著者:William Boissonnault, Robert Donatelli

人類の足は、進化の過程や環境変化のなかで形づくられ、履くものによって変わってきた器官です。その働きをめぐっては、力学、解剖学、進化人類学から臨床の現場まで、さまざまな角度から研究が重ねられてきました。「フットコンディショニング」はこうしたエビデンスに支えられています。このコラムでは理解を深めるために知っておきたい研究や論文を紹介していきます。

歩くとき、かかとが浮いてつま先が地面から離れるまでのあいだ、足の親指は地面に押しつけられたまま反り返ります。この動きが、足全体の硬さを切り替えるスイッチになっている。この論文は、それまでの解剖学と歩行の研究を集めて、その仕組みをひとつの筋道にまとめました。かかとから親指まで通る一本の丈夫な帯が、親指の反りで巻き取られてぴんと張る。これを船のいかりを巻き上げる装置になぞらえて「ウィンドラス機構」と呼ばれます。発表から年月を経たいまも、足の力学の基本原理です。

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歩くとき、かかとが地面から離れてつま先で蹴り出すまでのあいだ、足の親指は地面に押しつけられたまま、付け根の関節が反り返ります。この反り返りが足になにをしているのか。1984年に発表されたこの論文は、それまでの解剖学と歩行の研究を集めて整理し、ひとつの筋道にまとめたレビューです。

歩く足には、少し矛盾した要求が向けられます。地面に合わせてしなやかに変形してほしい一方で、蹴り出すときには力が逃げないだけの硬さがほしい。柔らかいままでは、足の弾性を推進力に変えられないからです。ここで重要な役割を担っているのが足の親指です。

足の裏では、かかとの骨から指の方向へ、厚い腱の膜が張られています。足底腱膜と呼ばれるもので、次第に5本に分かれ、それぞれの指の付け根につながっています。なかでも結びつきがいちばん強いのが親指で、かかとから親指まで一本の丈夫な帯が通っているようなものです。親指が反り返る(=背屈)と、この帯が巻き取られてぴんと張ります。それが船のいかり(ウィンドラス)を巻き上げる構造と同じなので「ウィンドラス機構」と呼ばれています。

帯が張ると、かかとと前足部が引き寄せられ、土踏まずが持ち上がって安定します。足全体が硬くなり、地面を蹴る力が逃げにくくなります。この連動は、その後の研究で実際に人の足でも確かめられています。

さらに、足裏の腱膜の一部は母趾球(親指の付け根)の皮膚の裏側につながっていて、指が反り返るとここも引っ張られ、やわらかかった母趾球が、硬いパッド状のものに変わります。蹴り出すときの反力を受け止めるためです。逆に、親指が十分に反らないとこれらの連動が起こりづらく、足の指の付け根の痛みや、痛みを伴うタコ、疲労骨折につながる可能性があります。

歩いているとき、親指の付け根の関節にかかる力は、およそ体重と同じくらいだといわれます。親指とその付け根は大きな骨と強い筋肉を備えているので、これだけの荷重に耐えられます。ところが外側の4本の指と骨にはそれほどの強さがなく、親指の付け根が硬くなって動かなくなると、その分の負担が外側に回ります。著者らは、これが中足骨などの疲労骨折の原因になりうると書いています。

また、足の親指を曲げる筋肉は、親指が適度に反り返った状態のときに、いちばん力を出しやすい長さになります。反りが足りないと、この筋肉も本来の働きをしにくくなるとされています。親指の反りは、ただ指が動くというだけの話ではなく、足全体の硬さを切り替えるスイッチのような役割を担っているというわけです。

発表から約40年が経った研究であり、後続研究で更新されている箇所もありますが、「親指が反ると帯が張り、足が硬くなる」という連動そのものは、いまも足の力学、ひいてはフットコンディショニングの基本原理です。

<出典>
Boissonnault WG, Donatelli R. The Influence of Hallux Extension on the Foot During Ambulation. J Orthop Sports Phys Ther. 1984;5(5):240-242. DOI: 10.2519/jospt.1984.5.5.240

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