飯塚誠さんは、ストライドの創立時を知る数少ないスタッフのひとり。その世界観をユーザーに伝える店づくりや、ブランドは違ってもどこか統一感のあるWEBページのデザインなど、「表に出るもの」をつくるのが仕事です。“デザインでブランドの魅力を加速させる”日々の活動について尋ねました。
文◎伊藤俊明
写真◎矢島慎一
店舗デザインから本社の引っ越しまで
飯塚が正式にストライドの一員となったのは2021年だが、出会い自体はさらに遡る。初めて仕事をしたのは、代表の福地孝がストライドを立ち上げ、多摩に最初の店舗をつくった2016年のこと。2026年の今年、ストライドは創立10周年を迎えた。飯塚は、この10年間を見てきた数少ない古株のひとりだ。
前職はデザイン会社でディレクターをしていた。ストライドが新規事業として小売店(現在の多摩店)をはじめるにあたり、ロゴマークや名刺、ショップカード、店舗の内装デザインを依頼したのが最初だった。
「当時はデザイナーとプログラマーと私の3人ではじまった小さな会社にいて、私は制作ディレクターをやっていました。ウチの会社はグラフィックとWEBが中心で店舗のデザインはやっていないよと伝えたのですが、『できるでしょ』と。とにかく予算が少なかったのと、社長の強引さに負けて」
空間のデザインは未知だったが、相手の要望を聞いて、それを叶えるためにはどうすればいいのかを考えるという手順はそれまでやってきた仕事と変わらない。デザイナーと相談して、「面白そうだからやってみよう」と引き受けた。初めてだったが物件が小さく、扱う商品がまだ少なかったこともあり、意図したとおりのものができあがった。
「トレッドミルと大きなモニターを設置して、靴の在庫は300足くらい置きたいという話で、バックヤードをつくるスペースがなかったんですが、幸いなことにブランドはALTRA(アルトラ)ひとつだったので、靴箱をきれいに並べればそのままディスプレイしても綺麗に見せられるんじゃないかなと。壁にはMDF材の板を立てて、穴を開けて棒を挿して、その上に靴を置くという見せ方になりました。棒の上に靴を置くというスタイルはそこからはじまりました」
以来、なにかをつくるタイミングがあれば声がかかった。本職のWEB制作をはじめ、カタログや店頭に置くパンフレット、多摩店に続き、福岡店や名古屋店の内装も請け負った。
定期的に仕事を受けるうちに、「ウチくる?」となるのは成長期の会社ではよくある話だが、入社時期から振り返ると、およそ5年は外部スタッフとして関わったことになる。おたがいの仕事ぶりを見定めるには十分な時間だろう。
いまの仕事はWEBをはじめ、カタログやパンフレットのような紙ものからイベント出展時のブース制作など、デザインや制作が必要なものを網羅している。
ストライドに関わるきっかけとなった店舗の内装は、いまでは外部の建築家に依頼するようになった。つい最近まではつくるだけでなく、それに付随する細かい雑事の多くも引き受けていた。
ストライド・ラボ 東京本店開店時の仕事ぶりが象徴的だ。
2024年の東京本店開店時には、それまで多摩にあった本社機能も移転した。移転時には、段階ごとにさまざまな手配や決断を迫られる。店舗スペースのレイアウト、必要な什器や機材の選定と購入、各フロアの使い道、どんな机をいくつ、どのように配置するか、ネット環境の構築など。
「当時は総務部もなかったのでやれる人間がやるというところもありました。当時は私がいちばんその辺りで動けたので。たしかに以前は店舗のデザインもやりました。レイアウトしたり、什器を買ったり、図面をつくって『こういうふうに造作してください』と業者に依頼するようなこともやっていました。でも、いまは外部にお願いしています。人が増えて、それまで自分がしていた仕事もどんどん渡しているところです」
時間はかかったが、本来やるべき仕事ができるような体制が整ってきている。
「そろそろ次のステージというか、制作に取られていた時間を減らして、いままでできなかったことをやりたいタイミングではあります」
これからのストライドをつくる
カタログのような製品情報は、季節ごとのニューモデル発表のタイミングで必要になる。
「カタログは、つくるというよりアップデートしていくものです。ブランドによっては本国のカタログをベースに、日本で展開しないモデルを省いたり、カラーを差し替えたりする作業が必要ですが、いまはブランドの担当者が自らできるようになってきています。使えるソフトも増えてますし、いまはAIの力も大きいですね」
WEBや印刷物だけでなく、店舗のデザインも進化している。去る4月には、東京本店も改装された。
そもそも店舗は物件のカタチに大きく制約を受けるが、店内に置く什器を揃えることで統一感を高められる。これまでは既製品を使ってきたが、今後は物件に合わせてつくり、より明確に「ストライドらしさ」を打ち出していこうとしている。
「什器はこれまでは既成のものを主に使っていました。でも、気に入って使っていたものが廃盤になってしまったり、機能やコストの面は優れていてもデザインがイマイチだったりしました。一方で、内装工事はいつも同じところに頼んでいるので、いっそまとめてつくってもらえれば、と。僕たちはモジュール化と呼んでいましたが、『ストライドのシューズラックはコレです』というものをデザインし、今後は物件のカタチに合わせて同じ意匠でつくってもらおうと動いてきました。出店準備の効率化も目指しながら、いままでのストライドではなく、『これからのストライド』のコンセプトができてきたと思います」
飯塚自身も口にしたように、次の段階に移ったということだろう。カタログやWEBサイト、新しい店舗、イベント用の展示物など、これまで必要に迫られて手がけていたものを少しずつ手放し、一歩引いたところから広く会社の状況を見渡せるようになってきた。
「会社の規模も大きくなって、取り扱うブランドも増えました。これからもっと成長していこうというなかで、本来あってもいいはずなのに、できていないことがまだまだあります。それを推進することをずっと求められているように思いますね」
どんなことがやりたいかと尋ねると、「やりたいこと、うーん」と自問するように、ゆっくりと言葉を選ぶ。落ち着いた受け応えのなかに、強い意思が感じられた。
「欲を言えば世間に出すものは全部こちらで目を通したい、というのはありますね。ストライドとしても、ブランドとしても、オフィシャルに出すのならきちんとデザインされたものを用意すべきですし、チームとしてそういう動き方をしていきたいですね」
企業やブランドにとってのイメージや表現の重要性は言うまでもないだろう。自由になった飯塚は、これからどんな発信をしていくのだろう。ストライドのこれからは、ますますおもしろくなりそうだ。
Profile
飯塚 誠(いいづか・まこと)
群馬県出身。家業の継承ではなく「やりたいことを仕事に」と学びなおし、デザイン会社にて制作ディレクターとしてキャリアを積む。不要なものを取り去るシンプルでクリーンな仕事はデザイナーの王道だが、ステッカーでパソコンを埋め尽くすような「付け加える」デザインにも憧れる。夏はロードバイク、冬はスキー。