STRIDE(ストライド)の受発注システム上で商品管理を行ない、あらゆる部署と関わる“ハブ”のような存在──それが土屋龍太さんの役割。商品の情報登録から始まって、倉庫との連携やシステム開発と業務範囲は多岐にわたる。AIも活用した効率最重視のスタイルかと思いきや、意外とアナログな部分が重要なようです。
文◎伊藤俊明
写真◎矢島慎一
自動車解体業からストライドへ
最新の物流倉庫は、高速道路から見て想像していたものよりはるかに巨大だった。天井が高い庫内は休業中かと思うほど、しんとしている。建物は巨大なのに人の気配が極端に希薄で、そのアンバランスが不思議な違和感をつくりだしている。
片手で数えられそうな作業スタッフは、発送に向けた選別や梱包をしているのだろう。ただし、ほぼ作業台につききりで、ピッキングのために動き回るようなことはない。商品は人が探しに行くのではなく、棚の方が動いて作業台のそばまで運んでくれる。「倉庫」という言葉からイメージされる雑然とした感じや、汗のにおいは一切ない。スマートで、徹底的に効率を追求した空間には清潔感すら漂っている。
ストライドはいま、大きな改革を進めている。
東京・人形町の本社からクルマでおよそ1時間のこの倉庫に国内の在庫すべてをまとめ、同時に取引先に利用してもらうオンラインの受発注システムをより使いやすいものへとアップデートしようと取り組んでいる。
さまざまな部署が関わるこのプロジェクトの中心で、ハブとなって動いているのが土屋龍太だ。
ストライドが主に扱っているのはスポーツやアウトドアの関連製品で、スタッフはその愛好者も多い。ただし、全員がコアなプレイヤーというわけでもない。土屋の前職は自動車解体業で、そこでのキャリアを活かしてストライドに転職してきた。
自動車業界において、リーズナブルなリビルドパーツの市場はなくてはならないものとして確立している。お役御免となったクルマはただスクラップにされるのではなく、解体され、使える部品は再利用される。
土屋は、初めは解体の現場に入り、最終的には事務方を務めた。パーツの状態を見て値段を付け、管理し、オークションに出品する。リサイクルパーツ市場における一連の流れを経験したことが、いまの仕事につながっている。
「ずっと趣味人間なんですよ」
出身は埼玉県。幼稚園のころすでに、大宮の鉄道車両基地に電車を見に通っていたという。小学校の低学年でより身近にあるクルマが好きになり、いまも変わらずクルマ好きだ。18歳になると「速攻で」免許を取り、愛車を手に入れて自分でカスタムした。趣味の延長で職を見つけた。
「趣味と実益を兼ねるなんてよく言いますが、まさにそんな感じで、自分にとっては最高の仕事でした」
理想の職場だったが、10年以上がすぎて、現場から裏方まであらゆる部署を経験した。やりきったと実感したことで、なにか新しいことにチャレンジしたいという思いが芽生え、離れる決意が固まった。趣味仲間の飯塚誠に転職を考えていると話すと、「じゃあ、ウチに来れば」と誘われた。
ストライドで制作物のデザインなどを担当している飯塚とは、かつて飯塚が店舗デザインを手がけた地元のバーで知り合った。ロードバイクなど共通の趣味があり、気が合った。ストライドは受発注システムの管理担当者が退職し、後任を探しているタイミングだった。
主な仕事が受発注システムの商品登録や管理だとはもちろん聞いていた。業界が変わればわからないこともあるが、コツコツと進める仕事は性に合いそうだと思ったし、アウトドアへの興味もあった。
「飯塚さんには、『エクセルが使えれば大丈夫だから』と言われて。たしかにそうでしたけど(笑)。知らない分野だったし不安はありましたが、意外とすんなりなじめました」
全ブランドの全アイテムを知っている
商品部業務課は、土屋のひとり部署だ。おもな仕事は、卸先向けにつくられている受発注システムへの商品情報の登録や管理である。どのブランドのどの製品かを示すJANコードをはじめ、製品のサイズやカラーの情報を漏れなく正しく登録する。
たとえば新しいブランドの取り扱いが決まった場合、まずは土屋が製品のすべての情報をシステムに登録する。データは営業活動にも利用されるし、エンドユーザー向けのオンラインストアともリンクしているため、土屋の作業が終わらなければ多くの業務が滞ってしまう。データはいちど登録すれば終わりではなく、商品情報や価格の変更があれば都度修正を行なう。
「入社した際に、『みんなのハブになる仕事だからね』と言われました。なにをしているのかを説明するのが難しいのですが、いろんな部署の仕事に、ちょっとずつ顔を突っ込んでいるような感じです」
この仕事が簡単でないのは、自動化できない部分がどうしてもあること。元となるリストはフォーマットに従ってブランド担当者が作成するが、ブランドや製品によってシステムに登録すべき項目にはバラつきがあり、個別に目を通す必要がある。一つひとつの作業は難しくはないが、根気と集中力が求められる。
「ミスなく、正確に、でも早く。求められるのはそこだと思っています。最悪なのは、卸先やエンドユーザーに迷惑がかかってしまうこと。自分がやっていることは、けっこう会社の問題にも直結するんだなって、あるとき気がつきました」
大変なのは、複数ブランドの取り扱いが急に決まったりするとき。時間的にも、こなせる量にも限りはあるが、前職で身につけた現場魂で、「もう意地で」くらいつく。
「優先順位をつけるのが苦手なんですが、優しい先輩が助けてくれます。先輩後輩の関係づくりはうまくできているかもしれません」
要領はよくないと思っているが、細かい作業をコツコツと進めるのは好きだし、得意だ。たとえば趣味の自転車なら、後輪ギアの歯数を変えて組み直してベストなセッティングを追い求めたり、ジムに通って脚力を鍛えたりもする。急激に速くなることはなくても、タイムには地道な積み重ねの成果があらわれる。
新製品や新ブランドの入荷は多忙になるサインだが、楽しみでもある。
「シーズンごとの新製品も、新しいブランドが入ってくるときも、かなり早い段階から情報を知ることができます。『今年はこういうカラーでいくのか』とか、そういう動向をいち早く見られるのは優越感もあります」
多くのブランドを扱うストライドで、全ブランドの全アイテム(さらにいえば全カラーと全サイズまで)を見ている、ごく少ないひとりでもある。
「同じゼロドロップシューズでも国によって指向がまったく違っていたりします。そういうのが見えるのはおもしろいと思います」
やりがいを感じるのは、相手が喜んでくれたとき。
倉庫移管の最大の目的は業務の効率化だが、これまでできなかった土日の出荷が可能になることへの期待も大きい。主な卸先であるアウトドアショップは昼間に店を開けているため、発注作業が夜間になることが多い。店頭の在庫を切らさないように、「土日も出荷してほしい」という要望はこれまでも多かった。
問題は移管の点数だ。およそ10万点にもおよぶ在庫をどうやって移すか。現在稼働している倉庫からどのタイミングで、どんなペースで在庫を動かすのか。それにかかるコストはどうか。その際、自分は対応できるのか。
それに加えて、商品を動かしている間は受発注システムを止めなければならない。受発注システムを止めるということは売り上げが止まるということ。止める時間は短いに越したことはないが、あわててトラブルを起こしてしまっては元も子もない。移管と同時に新しいシステムを立ち上げる予定だが、その仕様も各部署からの要望を盛り込みながら、より良いものを目指している。
移管によって効率化できれば仕事が楽になるかと尋ねると、「そんなに甘くはないと思うんですよね」と苦笑いした。新しいシステムに慣れないうちは不具合もあるだろうし、調整も必要になるだろうと予想している。
ひとり部署の多忙な日々は、まだしばらくは続きそうだ。
Profile
土屋龍太(つちや・りゅうた)
埼玉県出身。子どものころから機械が好きで、鉄道、クルマ、ミニ四駆、ラジコン、モデルガン、自転車と趣味に明け暮れる。ストライドへの転職を機に、最近はキャンプに興味が出てきた。コーヒーが好きで、まずは「どこでもコーヒーが飲めるセット」をつくって、河原にでも淹れに行きたいと思っている。今年の目標は神奈川県・湯河原で開催される「湯渡し100」に参加すること。「有言実行します!」