STRIDE LAB 高尾店 店長 星 逸樹

2026.07.10

Staff stories

走ることが好きで、自然のなかで遊ぶことが好き。その純粋な気持ちは、いつしか仕事へとつながりました。STRIDE LAB(ストライド・ラボ)高尾店店長の星逸樹さんは、箱根駅伝を目指す陸上競技からトレイルランニングへ、そこからさらに幅広くアウトドアアクティビティを楽しむことで、これまで世界を広げてきました。夢中になれるものを追いかけることが、人に楽しさを伝える仕事に変わる。「好き」を仕事にした人の、ひとつの理想がここにあります。

文◎伊藤俊明
写真◎矢島慎一

ホームマウンテンの初沢山。アクセス至近の手軽さゆえ、店主催のイベントはもとより、開店前のひとっ走りもよくあること

トラックからトレイルへ

ストライド・ラボ高尾店は、高尾駅前のロータリーに面したビルの4階にある。高尾といえば高尾山だが、世界でもっとも多くの人が訪れる山の登山口にいちばん近いのは、ひとつお隣りの高尾山口駅になる。山はすぐそこにあるが、「世界一の山」の喧騒から少し離れた高尾は、落ち着いた雰囲気のベッドタウンという趣きだ。

近くの初沢山を案内してもらう約束で、店長の星逸樹と開店前の朝9時に待ち合わせた。登山口まで10分。鳥居を抜けて高尾天神社への急な階段を上がると社殿を回り込むようにトレイルが伸びている。地元の散歩コースなのだろう。きれいに踏みならされた土の道がソールに心地好い。山といっても標高はわずか294mで、山頂まで30分もかからない。

「でも、このぐらいがちょうどいいんですよね。近いし、人も少ないし。週末も静かです」

下りはちがう道を選んだ。こちらはあまり歩かれていないらしい。下草が生い茂り、シダがショートパンツの膝小僧を撫でる。蜘蛛の巣につかまり、倒木をくぐったり、乗り越えたりする一転してワイルドな道。お手軽だけど遊びがいのある里山だ。こんな山が近くにあったらいいなと、山好きならだれもが思うだろう。

高尾店にとって初沢山は文字どおりホームで、ことあるごとにこの山で遊んでいる。ハンモックを張ったこともあるし、地図読みのイベントもやった。毎週金曜夜のナイトランもここを走る。危ないところがないので、夜のトレイルは初めてという人にもぴったりだ。今日はゆっくり歩いたが、開店前にひとりで走ることもあるという。

分岐を逸れるとこのとおり草むすトレイル。登山というのがはばかられるような小さな里山だが、駅徒歩10分とは思えないさまざまな表情を見せる

星は、ずっと走ってきた。走りはじめたのは中学生のとき。

「中学ではサッカー部と陸上部の両方でした。ずっと長距離走で、中学で3,000m、高校からは5,000mです」

長距離を走る高校生の多くがそうであるように、箱根駅伝を夢見て陸上が強い大学に進み、陸上部に入った。駅伝部もあったが、そこに入れるのは推薦を受けたエリートのみ。転部するには5,000mを15分以内で走らなければならなかった。

「1年間がんばったんですが、ぎりぎり15分を切れませんでした」

1km3分はトップレベルのタイムだが、15分切りはあくまでも最低ラインだったという。箱根を走るのは本当に一握りのエリートなのだ。

夢は叶わなかったが、かわりに星はトレイルを走りはじめた。UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)を走る鏑木毅選手を追ったNHKのドキュメンタリー「激走モンブラン!」を見て、ベストセラー「BORN TO RUN 走るために生まれた」を読んで、トレイルランニングやベアフットシューズにはずっと興味を持っていた。

初の100km超えは大学時代に参加した上州武尊スカイビュートレイル120K。累積標高差9,000m以上の過酷なレースを28時間52分で完走した
立山で滑り納めのつもりが、欲が出て5月末の乗鞍岳へ。時期や場所に合わせてAT、テレマーク、BCクロカンを使い分ける
いっしょにトレランをはじめた先輩と4回目のOMM JAPAN。ナビゲーションの精度が上がり、回を重ねるごとに成績も良くなっている

「大学1年までは競技に専念していましたが、本を読んだりした高校生のころからおもしろそうだと思っていて、2年になって陸上部の先輩といっしょに始めました」

初めて走ったのは高尾山の稲荷山コース。自然のなかを走るのは新鮮だった。

「陸上の練習はトラックを走ったり、ロードを走ったり。トラックは20周も30周も同じところをぐるぐる回りますが、山はずっと景色が変わりつづける。自然のなかを走るだけで楽しかったです」

そうしてトレランにハマり、陸上部での活動と並行してトレイルのレースにも参加するようになった。初めての100km超えは上州武尊スカイビュートレイル120K。学生時代の最後には、当時のUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ。現マウントフジ100)も走った(そのレースは残念ながら途中で雨天中止となり、そのリベンジは2022年の完走にて果たしている)。

「ここ2、3年はレースには出ていませんでしたが、ひさびさに走りたくなって、今シーズンは信越五岳の110kmを走ります。信越はずっと走ってみたかったんですよね」

レースは9月。いまはひさしぶりにレースを意識したトレーニングを楽しんでいる。

高く大きな窓から陽の光が降り注ぐ明るい店内。奥にはクライミングウォールも
SALTIC(サルティック)のベアフットクライミングシューズ。長時間履いても足が痛くなりにくいので、気軽に楽しみたいという人にもちょうどいい

いろいろな遊びを伝えたい

出身はフィールドにも恵まれた福島県・会津。アウトドアの遊びが好きな両親のもと、夏はキャンプや自転車、冬はスキーと子どものころから外で遊んでいた。中学高校と陸上競技を続けるなかで、将来はスポーツに関わる仕事がしたいと思うようになる。

「自身がケガ持ちだったので、トレーナーの資格が取れることと陸上が強いというふたつの理由で大学を選びました」

競技に取り組んでいたころは、すねの内側に痛みが出るシンスプリントに悩まされていた。BORN TO RUNを読んだりベアフットシューズに興味を持ったりしたのは、ケガに悩まされていたからでもある。

BORN TO RUNは、ランニングによる足の痛みに苦しむ著者が「走る民族」と呼ばれるメキシコのタラウマラ族と出会い、人間の「走る力」を紐解いていくベストセラー。古タイヤからつくった薄いワラーチを履くタラウマラ族は、シューズのクッションを頼ってかかとで着地するのではなく、足の前方を地面に着く。この走り方が、人が本来持つ足のクッショニング機能を引き出す。

話はそれるが、この本に登場するベアフット・テッドは、タラウマラ族が履くワラーチをベースにLUNA SANDALS(ルナサンダル)を生み出した。ストライドが創業当初から扱っている主要ブランドのひとつだ。ブランドの名前はテッドにワラーチづくりを手ほどきしたマニュエル・ルナからもらっている。

ルナサンダルの創業者、ベアフッド・テッドも来店した。入り口の自動ドアにはALTRA(アルトラ)創業者のひとり、ブライアン・ベックステッドのサインが入っている
私物の山道具が会話の糸口になることも。興味が沸いたらチャレンジしてみるのがおすすめだ。いい店にはそれを手引きし、そっと背中を押してくれるスタッフがいる

閑話休題。星がトレランを始めたころはストライド・ラボはまだなかったが、ルナサンダルやアルトラの存在は知っていた。あるときアルトラのポップアップイベントが行なわれるのを知り、期待を胸に駆けつけた。

「そのときはアルトラのスペリオールを買いました。ルナサンダルも出ていたんですが、まだ学生だったので両方買うお金がなくて……」

ストライドとの付き合いはそのときからはじまり、ストライド・ラボができるとときどき顔を出すようになった。トレランからはじまって、軽い道具で素早く遠くまで自然に分け入る、ファストパッキングのような遊びも始めて、アウトドア業界で働きたいと思うようになっていた。

「単純に、遊んでいるのが仕事になるのはいいなぁと思ったんですよね(笑)」

トレーナーの資格は結局取らずに、卒業後はアウトドアメーカーに就職。その直営店で働くようになった。

ある日、ストライド・ラボを訪れると代表の福地孝が電話で話していた。名古屋店を立ち上げようというタイミングで、店長候補を探していた。

「電話を切った福地さんに、『名古屋の店で働かない?』と言われて、思わず『はい』と答えていました」

まだ学生だったころ、福地に「人募集していませんか?」と尋ねたことがあった。そのときはタイミングが合わなかったが、時がすぎてチャンスがめぐってきた。すでに仕事をしていたが、転職を即決。こうして星はストライドの一員となった。名古屋店の店長を2年半務めたのち、前・東京本店(聖蹟桜ヶ丘)へ転籍。高尾店のオープンと同時に高尾店の店長となった。

店に並ぶ商品は、星が自らメーカーや輸入代理店の展示会を回って選んでいる。セレクトは質実剛健。見た目はさわやかだが、意外と骨太な性格か

ストライド・ラボのなかでも高尾店はアウトドア色が強い店舗だ。取り扱う商品のセレクトは星が自ら行なっている。

「お客さまは山の帰りに立ち寄ってくれることが多いですね。高尾はちょうど乗り換えの駅なので」

同じ建物の2階には高尾ビールのマイクロブリュワリーやおいしいコーヒーを出すカフェがあり、ここを目当てに来た人がついでに立ち寄ることも多い。金曜日のナイトランが終わったあともビールで締める。

吹き抜けで開放感あふれる店内には、大型店とはひと味ちがう品揃え。テクニカルな製品が好きだという星のスタイルを反映した、派手さはないが実践的なアイテムが揃う。厳選された道具と並んで、ところどころに私物が置かれている。「これなんですか?」と聞かれればシメたもの。

「お客さまにはいろんな遊びをしてほしいと思っています。最近はトレランしかしないという人や登山しかしないという人も多いのですが、分け隔てなくいろいろとやった方が楽しいと思っていて、そういうことを伝えていきたいと考えています。そんな会話の糸口になればと思って(笑)」

話しながらクライミングウォールにぶらさげたフラットソールを手に取る。星が見つけて取り扱いが決まったサルティックのベアフットクライミングシューズだ。自分が好きなものを人に奨めるそのときは、山を歩いているときとまったく同じ顔になる。

高尾店を立ち上げるにあたり、アルトラやルナサンダルのようなクライミングシューズはないだろうかと探して見つけたのがチェコのサルティック。写真はふだん履きもしているアプローチシューズの「アウトドアフラット」。ほかに前述したクライミングシューズもある。この2モデルは、高尾店のほか、東京本店、妙高店、熊本店のみでの取り扱いとなる

Profile

星 逸樹(ほし・いつき)
福島県出身。自然豊かな会津で子どものころから外遊びに親しむ。中学生から陸上をはじめて箱根駅伝を目指していたが、大学駅伝部への転部が叶わずに断念。陸上競技自体はその後も続けながら、同時にトレイルで走り始める。共に始めた先輩は、いまも遊び仲間だ。夏はトレラン、登山、自転車。冬はアルペンスキー、テレマークスキー、BCクロカン。仕事を続けるなかで楽しみはどんどん広がっている。

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